「年々業績が上がっているにも関わらず、税負担によって手元にお金が残らないので節税対策を始めたい」「親の会社を継いで社長になり責任が増えたので会社や家族のために保障を準備しておきたい」などの理由で法人保険を検討している経営者は多い。
同じ規模の会社社長は平均してどれくらいの金額の保険に入っているのか、ということが気になる経営者も少なくないだろう。
しかし、経営者向けの保険は、保険に加入する目的ごとに複数のタイプがあり、会社が違えば保険に入る目的も当然異なる。そして、法人保険はメリットだけではなくリスクも大きい。自身の会社の経営状況や社長としてのライフプランに合った保険を選ぶことが大切だ。
この記事では、法人保険でできること、保険種類と税制、保険選びのチェックポイントという3つの観点から法人保険を解説していく。ぜひ参考にして頂きたい。
この記事でわかること
法人保険に入る目的とは?

まずは、4つの法人保険に入る目的を解説していく。
経営者の保障
一つ目の法人保険の目的は経営者の保障である。
経営者として、従業員や家族の収入・生活を保障していかなければならない責任は非常に大きいものである。経営者に万が一のことがあった場合に会社が機能しなくなるようではその責任を果たすことができない。
法人保険に加入することで、経営者の死亡時や、長期入院などで働くことができなくなった場合に会社の経営を保険金で支えることができる。この経営者の保障が、本来の法人保険の役割だ。
節税対策
経営者保障という本来の目的に加え、法人保険は会社経営者の間では「節税」のための大事なツールとなっている。
中小企業の法人税率は、年800万円以下の所得には19%、800万円超の部分には23.4%となっている。法人税のみならず、法人住民税および法人事業税もあり、利益が出れば出るほど税負担は重くなる。
法人保険では保険料の一部または全額を損金に算入することができ、見かけの利益を減らし法人税負担を下げることが可能だ。
節税目的で加入する場合には、ある程度の期間、保険料を損金算入し節税をした上で、解約返戻率の高いタイミングで解約し同じ年度に設備投資や退職金などで使ってしまうという方法が取られている。同じ年度中に使わなければ解約返戻金は雑収入として益金算入されるため、節税した意味がなくなってしまう。
退職金準備
法人保険には退職金準備という目的もある。社長や役員の退職金はもちろんのこと、従業員の退職金準備も可能だ。いずれも、法人保険で毎年節税をしながら保険料を積み立て、解約返戻金を退職金に充てる方法を取る。
経営者の退職金を準備するのであれば、あらかじめ、退職時期の予定を立てた上でその時期に解約返戻金のピークが来るよう保険を設計するのが一般的だ。一方で、従業員はいつ辞めるかわからないというリスクがある場合もある。その場合には、どのタイミングで解約しても比較的高い返戻率が期待できる貯蓄性の高い保険が向いている。
事業承継
会社の経営を後継者に引き継ぐことを事業承継と言う。近年経営者の高齢化が進んでいることから注目の話題となっている。
事業承継のときには相続税もしくは贈与税が課税される。節税しながら積み立てた法人保険の死亡保険金や解約返戻金を後継者の納税資金として準備することができる。
また、保険料支払いによって損失を計上することで会社の利益が小さくなり、その結果、自社株の評価額を下げることも可能だ。相続もしくは贈与資産の圧縮となり事業承継がしやすくなる。
法人保険の種類と税金

次に、法人保険の5つのタイプを見ていく。
逓増定期保険
逓増定期保険は、年齢とともに死亡保険金が上がっていくタイプの保険だ。一定期間を経過すると当初の死亡保険金額から、最大で5倍まで死亡保険金がアップする仕組みになっている。
こうすることで何が起きるかというと、早期に解約返戻金を引き上げることができるのだ。毎回支払う保険料は、保険期間を通じて変わらない。しかしこの逓増定期保険は、加入当初の保険金額は少なく、一定期間を経過し死亡のリスクが高まる年齢で保険金額が大きくなる。つまり、保険期間の前半において、毎回支払う保険料は、後半の保険金支払いを補うために、ほとんど積み立てに回る仕組みとなっている。一般的には、4年〜10年が解約返戻率の高い時期となっている。

一方で、その期間を逃すと返戻率が低くなり大きく元本割れを起こしてしまうことになる。
死亡保障としての使い道の場合は別だが、解約を前提とした契約であれば、時期を逃さないということが大切だ。後継者が見つからず社長退職の時期が先送りになったり、設備投資の予定時期がずれたりすると解約返戻金の大幅な元本割れや税負担で思わぬ出費となるリスクがある。
保険期間の最初の6/10の期間の損金算入割合は、被保険者の保険期間満了年齢や保険期間によって下表のようになり、残額を前払保険料(資産計上)とする。残りの4/10の期間では全額損金算入に加え、前払保険料に計上した金額を期間按分し取り崩す(損金算入)こととなる。
逓増定期保険の損金割合
保険期間満了年齢 | 要件 | 損金割合(保険期間の前半6/10) |
45歳以下 | なし | 全額 |
45歳超 | 下記に該当しないもの | 1/2 |
75歳超 | 契約時年齢 + (保険期間 × 2)> 95 | 1/3 |
80歳超 | 契約時年齢 + (保険期間 × 2)> 120 | 1/4 |
長期平準定期保険
逓増定期保険が、解約を前提とした契約の場合に5年から10年を目安としていたのに対し、長期平準定期保険は20年〜30年が解約返戻金のピークとなる。ピークの期間が長いことから逓増保険に比べリスクが低くなるのがポイントだ。
逓増保険とは異なり、保険期間中一律の保険金が下りる仕組みになっている。また保険期間も長く95歳や100歳が満期となっている。

損金算入割合は、保険期間の前半6/10は1/2となり、残り1/2は前払保険料として資産計上となるが、保険期間の後半では全額損金算入に加え、前払保険料に計上した金額を期間按分し損金算入することができる。考え方は逓増定期保険と同様だ。
養老保険
養老保険は、貯蓄性が高いことが特徴だ。逓増定期保険や長期平準定期保険のように解約返戻金が高い期間が限られているのではなく、下図のように解約返戻金は期間とともに増加しており、どのタイミングでやめても大幅な元本割れは起きにくい。

したがって、退職時期があらかじめ明確にして保険に加入すべき社長や役員とは違い、いつ何時退職するかわからないリスクのある従業員の退職金準備として活用されることが多い保険である。契約形態は次のようにするのが一般的だ。
契約者 | 法人 |
被保険者 | 従業員 |
満期受取 | 法人 |
死亡保険金受取 | 従業員家族 |
このように従業員の福利厚生として養老保険に加入する場合には、保険料の1/2が損金算入される。
医療・がん保険
法人が契約者となり、経営者や役員を被保険者となる保険には医療・がん保険もある。会社のキーパーソンが病気で不在になった場合のリスク対策をメインの目的とする商品ではあるが、貯蓄性の高い保険も存在しているため、病気に備えつつ退職金などの準備ができることが特徴だ。
保険期間の前半は1/2損金算入し残額を前払保険料に計上、後半は全額損金算入に加え、前払保険料に計上した金額を期間按分し取り崩すこととなる。
以前は全額損金算入とされていたが、2012年にその貯蓄性の高さから全額損金扱いでは税制優遇が過ぎるとの理由で1/2損金に変わった経緯がある。
今話題の災害重視型定期保険
近年、節税目的として急激に人気を伸ばしてきている保険である。それが全額損金算入可能な災害重視型定期保険だ。
生命保険は通常、災害による不慮の死亡及び病気による死亡に対し保険金を支払うが、この保険は5年や10年間など契約時に定めた前期保険期間は、保障の対象が災害による死亡に限定される。保険料というのは確率で決まってくるが、災害で亡くなる可能性というのはそれほど高いものではない。そのため、前期保険期間の保険料が保険金支払いに使われることが少なく、ほとんどの金額が積立に回る。その分、解約時に戻ってくる金額も大きくなるのである。
この法人保険を契約し、全額損金算入しながら返戻率が高いうちに中途解約をするという手法が目立っている。しかし、法人がん保険の例と同様に金融庁の調査対象となっており損金算入割合が今後減らされる可能性が出てきている。過去の同様事例では、改正前に契約した保険には損金算入割合の変更が遡求しなかったことから、駆け込み需要が予想される今話題の法人保険だ。
保険選びのチェックポイント

最後に保険選びをする上でのチェックポイントを解説していく。
万が一の解約を視野に入れる
法人保険を設計するには会社の経営状況、経営者のライフプランなど多くのことを同時に考える必要がある。同じ規模の会社の平均保険料は参考になるものではない。
節税効果や高い解約返戻金などの魅力で、リスクを深く考えずに加入することは非常に危険だ。高額な保険料を支払うことが苦しくなり、返戻率の低いタイミングで解約し大損してしまうことも往々にしてあり得ることなのだ。
また、保険加入について相談する相手も慎重に選ぶ必要がある。法人保険は、個人向け保険に比べ保険料が高額になることからも、保険会社や金融機関にとって収益が大きい、言わば「契約が取れれば美味しい商品」なのだ。目先のノルマ達成のために、明確な出口戦略を練らずに契約させてしまうという事例もゼロではないのが現状だ。担当者をしっかりと見極めることや、中立な立場でアドバイスをもらえるプランナーに相談することをおすすめする。
社長個人名義での保険加入の必要性
社長個人で保険に加入することが必要かという質問は多い。
法人保険で医療保険やがん保険に加入していて、実際に病気になった場合には会社に多額の給付金が下りても実際に社長個人への見舞金として認められる金額は10万円~15万円が相場だ。見舞金は社会通念上妥当な金額とされており、それを超える場合、報酬と扱われ所得税・住民税が課税される。
法人保険の医療保険やがん保険は、被保険者の個人的な医療費をカバーするというよりは、病気や怪我によって経営者が不在となった会社の経営を助けるという意味合いが大きいのである。
幸い、高額療養費制度で健康保険適用の治療であれば毎月の自己負担上限額は下表のように決まってくるが、年収によっては限度額が20〜30万円となり、保険金の恩恵でまかないきれないこともある。
69歳以下の高額療養費制度限度額
適用区分 | 上限額(世帯ごと) |
年収約1,160万円~ | 252,600円+(医療費-842,000)×1% |
年収約770~約1,160万円 | 167,400円+(医療費-558,000)×1% |
年収約370~約770万円 | 80,100円+(医療費-267,000)×1% |
~年収約370万円 | 57,600円 |
住民税非課税者 | 35,400円 |
そう考えると、法人名義で医療・がん保険に加入していたとしても、個人名義でも加入しておく必要があるだろう。
一方で、法人医療・がん保険は、社長の退職時に保険の契約者を法人から社長個人に名義変更することが可能だ。ポイントは、全期間において掛け金を全額損金にできる保険を選び、保障期間を一生涯かつ保険料の払込期間を短期に設定すること。そして、保険料の払込を満了したいら、会社に保険の解約返戻金を支払い社長個人が「買い取る」形を取ることだ。そうすればこれまで法人が節税しながら負担していた高額な掛金の保険を安く手に入れることができ、法人にとっても社長個人にとってもメリットがあるのである。
したがって、社長個人名義の保険は現役のうちは通常の個人向け医療・がん保険に加入し、退職時に法人保険から名義変更をするという方法が魅力的だ。
まとめ

法人保険の目的や種類、加入時のチェックポイントについて解説してきた。法人保険は、目的や出口戦略が曖昧なまま契約してしまうと会社の経営を揺るがしかねないリスクの高い保険である。しかし、上手に使えば会社にとってのメリットは大きい。
ぜひ、この記事を参考にして効果的な法人保険選びをしていただきたい。

富田FP事務所 代表 ファイナンシャルプランナー
2019年度MDRT成績資格会員(8年連続MDRT成績資格会員)
ゴールドマン・サックス証券会社等、複数の金融機関にて勤務し、金融業界のノウハウを学ぶ。2007年 独立して、株式会社フォーチュンフィールド設立。富田FP事務所として、独立系FP、独立系IFAを含め、証券会社、保険会社、保険代理店、にて金融業界の知識を活してプロフェッショナルの事業を行う。
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